「立ち入り検査」とは、金融庁及び金融庁長官から委任を受けた財務局(福岡財務支局及び沖縄総合事務局を含む)が、法令に基づいて前払式支払手段発行者に対して実施する検査の一種です。この検査は、金融モニタリングを実施する上での一手段として位置づけられています。
立ち入り検査の目的
立ち入り検査は、被検査金融機関(ここでは前払式支払手段発行者を指します)の業務の的確な実態把握及びその適切性の検証を行うことを目的としています。これは、前払式支払手段の発行業務が法令等を遵守し適切に行われているかを確認するためであり、最終的には資金決済に関するサービスの適切な実施を確保し、その利用者等を保護するとともに、当該サービスの提供の促進を図り、もって資金決済システムの安全性、効率性及び利便性の向上に資することを目的とする資金決済法の趣旨に沿うものです。
立ち入り検査の実施主体
立ち入り検査は、金融庁及び金融庁長官から委任を受けた財務局が実施します。
立ち入り検査の対象
立ち入り検査の対象は、前払式支払手段の発行者です。これには、自家型発行者(自社でのみ利用可能な前払式支払手段の発行者で、基準日未使用残高が1,000万円を超えた場合に届出が必要)と第三者型発行者(発行者以外の第三者からの物品購入やサービス提供の対価支払いに利用できる前払式支払手段の発行者で、発行前に登録が必要)の両方が含まれます。
立ち入り検査の手続き
立ち入り検査は、原則として以下の手続きに基づいて実施されます。
1.立入検査開始前
- (1)予告
- 立入検査は、効率性の観点から、原則として、被検査金融機関に対して立入開始前に予告が行われます。予告を行う場合は、検査通知書の交付等により被検査金融機関に通知されます。
ただし、実効性のある実態把握の確保の観点から、必要と認める場合には、無予告で立入検査が実施されることもあります。無予告で行うか否かの判断は、被検査金融機関の事務量、前回検査結果等を勘案して行われます。
- (2)予告から立入検査開始までの期間
- 予告を行った場合、検査通知書等で通知後、被検査金融機関と調整の上、検査班及び被検査金融機関双方の準備が可能となる立入開始予定日が別途連絡され、立入検査開始までに立入を行う検査官名が伝達されます(検査途中で変更があれば、その都度伝達されます)。
自然災害の発生等やむを得ない事情により、検査の実施が困難になったと認められ、立入開始を変更又は中止する場合には、速やかに被検査金融機関に連絡されます。
- (3)事前に資料等を求める際の留意事項
- 主任検査官は、予告後、立入開始前に、被検査金融機関に対して、事前に求める資料等の記載内容等を説明し、提出期限等を示して資料等を求めます。

事前に資料等を求めるに当たっては、以下の点が留意され、日常的なモニタリング等で徴求した資料等の活用に努め、当該事前に求める資料等は必要なものに限定されます。
- 原則、被検査金融機関の既存資料等を活用します。
- 資料の必要性や重複を十分検討の上、必要な限度とします。
- 提出期限の設定に当たっては、被検査金融機関の対応能力や事務負担に配慮します。
2.立入検査中
- (1)立入
- 検査官は、被検査金融機関に立ち入り、業務に関する帳簿書類その他の物件を検査し、関係者に質問を行います。
- (2)意見交換
- 検査官は、被検査金融機関の役職員等に対し質問を行う場合、相手の説明及び意見をよく聞くとともに、当方の考え方を伝える場合には、監督指針のほか、分野別の「考え方と進め方」等を踏まえ、その根拠等も示すなど、両者で十分な意見交換を行います。
- (3)資料等を求める際の留意事項
- 検査官は、被検査金融機関の業務の的確な実態把握及びその適切性の検証を行う観点から、主任検査官の承認の下で、随時、資料等を求めることができます。

資料等を求めるに当たっては、被検査金融機関の負担への配慮や、効率的・効果的な立入検査の実施の観点から以下の点に留意されます。
- 資料等の必要性や重複を十分検討の上、必要な限度とします。
- 原則、被検査金融機関の既存資料等を活用しますが、既存資料等以外の資料の提出を求める場合には、必要とする記載内容等を満たす限り、その様式は問われません。
- 資料等の提出方法については、検査遂行に支障が生じない限り、電子媒体による提出、検査会場への備え置きによる提出等が認められます。
- 提出期限の設定に当たっては、被検査金融機関の対応能力や事務負担に配慮します。
- (4)検証
- 検査官は、立入中における検証に当たっては、被検査金融機関との間における対話が重要であることを十分に認識し、相手の説明及び意見をよく聞くとともに、当方の考え方を伝える場合には、監督指針のほか、分野別の「考え方と進め方」等を踏まえ、その根拠等も示すことに留意します。
- (5)実地調査
- 必要に応じて、被検査金融機関の営業所、事務所その他の事業所に立ち入り、実地調査が行われることがあります。実地調査を行う場合は、事前に対象場所や日程等が被検査金融機関に通知されます(予告なしの場合を除く)。

実地調査の実施に当たっては、以下の点に留意されます。
- 実地調査の実施が、極力、被検査金融機関の営業に支障が生じないように配慮されます。
- 役職員のプライバシーに関する個人所有物など、業務に係る物件以外の物件について、閲覧は求められません。業務に係る物件かそれ以外の物件かの判断が困難な場合は、相手方の承諾を得た上で、その判断に必要な限度で確認が行われ、判断されます。
- 調査は複数の検査官をもって行われ、被検査金融機関の責任者等一人以上を立ち会わせます。
- 対象とする施設等に置かれている全ての業務に係る物件の中から、立入検査に必要な原資料等が適宜抽出された上で、閲覧が求められます。
- 閲覧を求めた原資料等を、実地調査を行う施設等以外に持ち出す等の場合には、管理簿などで適切に管理されます。
- (6)立入検査終了手続(エグジットミーティング)
- 主任検査官等は、立入検査終了前に、被検査金融機関の経営陣等に対して、立入検査の主要な結果(問題点や課題を含む)について説明(エグジットミーティング)を行います。この際、必要に応じて、口頭による指導・助言等も行われます。
3.立入検査終了後
- (1)検査結果通知書等の交付
- 主任検査官は、立入検査を通じ把握した事項、問題点・課題をとりまとめた検査報告書を作成します。
検査担当局長は、この報告書その他立入検査における検査内容を審査し、立入検査を通じ把握された事項、問題点・課題の軽重に応じて、検査結果通知書等を作成し、被検査金融機関に交付します。被検査金融機関を子会社とする金融持株会社がある場合には、必要に応じて当該持株会社に対して被検査金融機関の検査結果通知書(写)が交付されることもあります。
検査結果通知書等の交付は、迅速な審査の上、立入終了後、出来る限り早期に行われます。
書面で通知するまでもない軽微な問題点・課題についてはエグジットミーティングでの「講評」にとどめられ、ビジネスモデル等の継続的な対話を行っていく課題については「当局所見」又は「検査結果通知」、重要な問題点・課題については「検査結果通知」として書面が交付されます。通年で実施した立入検査の結果については、把握した事象の軽重により、「フィードバックレター」と「検査結果通知」が使い分けられます。
- (2)検査結果に基づくモニタリング
- 立入検査は金融モニタリングの一手法であることから、特に、検査官と継続的なモニタリングを担当する職員が異なる場合には、両者が十分に情報共有・連携しつつ、検査結果通知に基づく法令上のフォローアップを行う場合にとどまらず、立入検査を通じ把握された事項や問題点・課題に関して、継続的なモニタリングが実施されます。
4.情報管理
立入検査の実施に当たり、検査官が被検査金融機関から提出を受けた資料や、立入検査等を通じて知り得た情報(以下「検査関係情報」といいます)は、厳重に管理され、検査以外の目的には利用されません。
このため、主任検査官は、検査関係情報について、当局の事前の承諾なく、第三者(被検査金融機関の経営全般を管理する立場にある銀行持株会社や保険持株会社等は除く)には開示してはならない旨を説明し、立入初日までに(無予告の場合は、立入開始後、速やかに)この旨の承諾を得ます。
無予告検査
原則として予告が行われる立ち入り検査ですが、実効性のある実態把握の確保の観点から、必要と認める場合には、無予告で実施されることがあります。

以下のような状況下で無予告検査が必要と判断されることがあります。
•重大な法令違反や不正行為の疑いがあり、予告することで証拠隠滅が行われる可能性が高い場合。
•経営状況が急速に悪化しており、緊急に実態を把握する必要がある場合。
•過去の検査において、被検査金融機関の対応に問題が見られた場合。
検査関係情報の取り扱い
立入検査を通じて得られた検査関係情報は厳重に管理され、原則として第三者に開示することは禁じられています。
まとめ
いかがだったでしょうか。このように、立ち入り検査は、前払式支払手段発行者の業務運営状況を監督当局が直接確認し、問題点や改善点を把握するための重要な手段となっています。法令に基づく行政調査手続である立入検査に関する情報は、極めて機微な情報が含まれているため、我々専門家であっても立ち会うことができません。常日頃から発行者自身が法令に則った対応を行う必要があります。前払式支払手段の管理に不安がある発行者様は、法令順守のためにもお早めにご相談いただくことをお勧めいたします。
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